デリケート
「そうですね。人権は大切で、デリケートだから、紙屑のように脆いんですよね」
S棟内の狭い教室の中、三十数名の物言わぬ眼が、マナを見据えた。教師を含めた生徒も気まずそうだ。
「そ、その通りだ。人権は大切で、非常にデリケートなもので……」
教師は顔色を変え、わざとらしく咳払いしている。
あんな回答では普通、回答にならない。だが遺伝子操作兵のマナが言えば、それは立派な答弁になってしまう。教師を目指す教育学部生の授業を専門に受け持つ教授が、自分達のような存在を邪険に扱うのは、自らの無知さを知らしめる事になりかねないからだ。
(大切だからこそ、紙屑のように脆い、というのは本音だけどね)
教師はマナの発言から逃げるように黒板に何かを書き始める。
新入生の彼は何が起こったのかと眼を点にしていたが、この状況を引き起こした主因がマナであることに気付くと、すまなさそうにこちらを上目使いで見る。
そんな彼にマナは『気にするな』と手を振ってみせる。彼は周りからはわからないように、素早く、そして小さく頭を下げた。