人権教育
この授業、人権教育論はマナにとって、とても楽だ。何故なら遺伝子操作兵そのものである彼女は、それこそ人権侵害が行なわれた顕著な例。そんな彼女には、決して質問がなされない。腫れ物に触るような態度で、他の生徒の答弁を聞くだけ。
以前は質問もしていたのだが、時には顔を青くして答える教師が可哀想だったので、以来、質問はしないようにしている。
「え、えーと……人権というものはですね、大変デリケートなものでして、あの、その、えと」
当てられた当人は舌を噛みまくりで、慌てているのが一目でわかる。傍から見ているのが気の毒なくらい、動揺している。
(あれ? 私……どこかで、彼を見たかな?)
記憶の糸を手繰り、マナは彼とどこで会ったのかを思い出そうとする。
(ああ……昨日サークル室に来た彼か……スンゴイ顔だったから、別人のように見えたよ)
あの恐怖に歪んだ顔は、しばらくは忘れる事が出来そうにもない……
しかもあの後、ジェスが彼を引きとめようと、彼の罪悪感と同情を用いて勧誘をしたものだから、彼には本当に悪い事をした。かといって、部の為によかれと思ってした事なので、先輩であるジェスを責める事も出来なかったのだが。
「えー、えーと、だから、そのぉ、人権というものは大変大切なもので……」
実に要領を得ない回答が、未だに続いている。彼には悪い事をしたのだし、そのお詫びという訳では無いが、助け舟を出すのも良いかもしれない。