チョーク
狭い教室に響くのは、チョークを打ち付ける音。パラパラと黒板の床下に白い粉が落ちていく。
「いいかぁ。遺伝子操作兵が生み出されたのは2028年、ロシアで核弾頭が誤作動を起こした翌年とされている。何故遺伝操作兵がその時期に生み出されたか、飯島」
チョークで指された生徒は椅子に座ったまま説明を始める。
「はい。当時、大統領選挙を控えていたジョン・クラプトンアメリカ大統領が票の獲得の為に、大量破壊兵器の製造、売買、運搬等の全面禁止条約を提案。これを推進したリベラル系議員とアメリカを含めた各国民衆に押し切られたアメリカ政府がこの条約を締結、各国もアメリカにならいました。しかし軍需産業の滞り、自国の戦力維持の為に、遺伝子操作兵の開発に着手したとされています」
その回答に教師は満足げに頷き、黒板に貼った大型の世界地図をチョークで軽くコツコツと叩く。
「その通り。そして遺伝子改変に耐えられる人間の選定と遺伝子操作を終えると、実験も兼ねて彼らを実戦投入した。遺伝子操作兵が作られてから数年後、意味の無い殺し合いに嫌気がさした遺伝子操作兵は次々と脱走。大半は捕らえられたが、無事生き延びた遺伝子操作兵がマスコミを通し、大国の横暴を訴えた為、各国は遺伝子操作兵の処遇に苦慮する事となる。結果、ヨーロッパ各国の遺伝子操作兵を、戦争放棄を謳う日本で、アメリカの遺伝子操作兵を永世中立国のスイスで管理する案が国連で締結された。現在日本とスイスで、数百の遺伝子操作兵が人権を保障され、労働に勤しみ、学校に通い出しているのが現状だ」
ではこの観点から人権というものを述べよ、と教師はまた新たに他の学生を指名する